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　(承前)

　　わしはここに来て、そういうことを見ておる。先祖たちに教わったことじゃ。先

　祖の声も聞こえる。この下に骨が埋まっとるからな」

　　私は彼が手にした一塊の乾いた土を見つめた。

　「わしが嘘をついとると思っとるな？　それとも、このじいさんおかしいんじゃな

　いかとでも思っとるだろう。説明はできんが、わしにはここに死者が眠っているこ

　とがわかる。声が聞こえるんじゃ。太古の言葉で語りかけてくる。わしにはそうい

　う力があるんじゃよ。

　　先が分かれた棒を使って水脈を探り当てる人の話を読んだことがあるだろう？　

　棒を持って歩いていると、水の上に来たときに棒がそこを指し示すんだそうな。

　　わしもそういう風になるんじゃ。誰かの墓の上を越えるときに、何かを感じるん

　じゃよ。ぞくっとするような感じだな。わしのばあさんもそういう力を持っとった。

　ばあさんは、ご先祖様から与えられた力だから、いつでも耳を傾けていなくてはな

　らんと言っていた。

　　だからわしはここに来るんじゃ、ナーバーン。あのあたりに、わしらの先祖が眠

　っている。その声を聞きにな」

　　　　　　　　　　　　○

　　彼は私が興味を持ったことに気づいたらしい。「ほれ。よく見てろよ」そう言っ

　て腰を下ろし、膝を抱えた。なにも変わったことは見あたらない。私は黙って彼の

　そばに座りながら、なにを見ればいいのかとまどっていた。すると突然ごそごそと

　音がして、丈の高い草のあいだからファットバックが尻尾を振り振り現れた。

　「いい子じゃ」彼は言って、首の後ろをくしゃくしゃとなでてやった。ファットバ

　ックはしきりに尻尾を振りながら、草むらに戻っていった。

　　私は眉を釣り上げて、ダンにためらいがちに微笑みかけた。

　「どうじゃ」彼は言った。

　「ここに呼び寄せたんですか？」

　「もう一度やってほしいか？」

　「いえ」わたしはそう答えたが、本当はもう一度確かめてみたくてたまらなかった。

　　　　　　　　　　　　○

　とりあえず、インディアンの言葉の最後の問題と言うべきか。

　どちらも、「超能力」的で、非科学的な記述だと言えば言えるものだろう。

　だが、それがどういうものかわからないとしても、老インディアンのダンは、少なくとも、

自然や動物との関係を、＜深さ＞としての関係、＜深さ＞としての言葉、として感じている

ことは、確かなことだ。

　それを、迷信や迷盲として笑うことはできないと、僕は思う。

　ダンは、地下に眠る先祖の声を聞き、愛犬と心を通わせることができる。

　自分が生まれた大地や動物と深く結び付いているという意識が、ダンには存在している。言

葉を発さなくても、沈黙の中に、言葉を聞きわけることができている。

　黙っているだけで、心で、愛犬ファットバックを呼ぶ件は、「シートン動物記」には、そん

な話が、たくさん書き留められている。

　（この項、了）