井沢さん、あいかわらず面白いです。

　説得されます。

　日本は、仏教・神道・儒教が混在されていますよね。

　それらをひとつひとつ説明してくれます。

　たくさん刺激を受けましたが、ここではひとつだけ。

　「滝沢馬琴」から「和」とは何か、まで。

　　　　　　　　　〇

　　江戸時代、曲亭馬琴（本名は滝沢馬琴）が書いた有名な小説に『南総里見八犬伝』

　というものがあります。これに登場する八犬士は、それぞれが異なった文字の浮き出

　る水晶珠を一つ持っています。水晶珠に浮かび上がる文字は「仁・義・礼・智・忠・

　信・孝・悌」の八つ、実はこれは儒教の徳目なのです。したがって八犬士は、儒教道

　徳の権化と考えていただいていいと思います。

　　ただし、「仁」だけは、ほかの七つの徳目とは少し性格を異にします。「仁」は、

　残りの義、礼、智、忠、信、孝、悌という七つの徳目をすべて守った人が到達する、

　理想的人格という意味を持っています。ですから、先ほど儒教で一番大切なのは「孝」

　だと言いましたが、「孝」から始まって「仁」に終わるというのが、儒教における一

　つの理想形なのです。　

　　この儒教の徳目の中に、「和」は入っていません。もし、「和」が儒教的徳目であ

　るならば、八犬士の持つ水晶珠の中に和の珠が入っているはずです。でも、「和」と

　いう文字が浮き出る珠を持った犬士など出てきません。　　

　　　　　　　　　〇

　確かに、「八犬伝」は知っていますが、馬琴は、相当な「儒教の人」だったとは思いませんで

した。

　儒教で一番大切なのは、「孝」で、確かに、八犬伝で、一番最初に出て来るのは、「犬塚信

乃」（孝の珠）だったと思います。馬琴は、ちゃんと儒教の教えに沿って順番を作っていたんで

すね。

　　　　　　　　　　〇

　　では、「和」はどこからきたものなのでしょう。「十七条憲法」の第一条を分析す

　ると、結局、他人との協調性を保ち、むやみに争いを起こしてはいけない、と述べて

　いることがわかります。

　　ところが、これも儒教のところで詳しく述べますが、儒教には「義」という徳目が

　あります。「義」とは、ごく簡単に言えば「正義」です。正義を実現するためには悪

　と闘わなければなりません。争いになったとしても、義を貫かなければいけないこと

　もあります。ですから、儒教の徳目に「和」は必要ないのです。

　「和」は、とにかく争いを起こさずにやっていこうということです。そのため悪い

　かたちを取ると、悪を見逃すことにもなりかねません。だから中国人は、「和」を一

　番大切なことの一つとは考えなかったのです。

　　ところが日本人は、そんな「和」を一番大切なことと考えます。「和」は、明らか

　に仏教の影響でもありません。確かに仏教も平和主義ですが、それは他人との軋轢を

　絶対に避けようとする「和」とは違います。もし両者が同じものであるなら、第一条

　で、「篤く三宝を敬え、和を以て貴しとせよ」と言ったはずです。一条と二条が分か

　れているというこは、両者が違うものだからです。

　　第一条は明らかに仏教ではありません。もちろん儒教でもありません。したがって、

　第一条は、仏教でも儒教でもない「何か」によってできていると考えるのが合理的で

　す。

　　その「何か」こそが神道なのです。神道という言葉にどうしても抵抗のある人がい

　るかもしれませんが、ここで言っている神道とは、明治以降の国家神道ではありませ

　ん。日本人が古代から信じていた宗教としての神の道という意味だということをご理

　解ください。

　　　　　　　　　　〇

　「滝沢馬琴」から「和とは何か」までもっていく展開が、ちょっとシビれました（笑）。

　聖徳太子は、どうして十七条の憲法の第一条に「和をもって貴しとなす」としたのか。なかな

かわかりにくい問題ですが、「和」は、儒教でもないし、仏教でもないんだ、と。

　そこにあるのは、「神道」だ、と。

　聖徳大使は、仏教の人だと思っていましたが、儒教でも仏教でも、日本の憲法の第一条にはふ

さわしくない、と考えたわけでしょうね。ちょっと考えると、神道は、当時は仏教と敵対してい

るわけで、聖徳太子は曽我馬子の側なのですが、そこは複雑な心境があったんでしょうね。

　そう考えると、山岸涼子の『日出処の天子』の聖徳太子は、ちょっと神道に近い感じがします

ね。

　それから、河合隼雄さんの『中空構造日本の深層』にも適応できる気がします。

　日本は、中国の文化に決定的な影響（仏教・漢字）を受けながら、それでも、中心のところで

は、「空」の構造を守っていた、ということになります。

　聖徳太子には、それがわかっていた、と。　

　『境界知能』は、彩時記の方に書いたので、ここでは『どうしても頑張れない人たち』から引

用します。

　宮口さんは、「どうしても頑張れない人たち」を、「なまけ」として捉えるのではなく、「境

界知能」として生きてきたことから来る「特徴」であり、修正は可能だと見なしています。

　それは、素晴らしい考え方ではないかと思います。

　少年院の教官の「余計なことを言う」の一言。

　　　　　　　　〇

　　少年院でも同じようなことがありました。ある粗暴行為の目立つ無口な非行少年が

　いて、その処遇に教官が困っていました。ある日、教官が少年から言い分を聞こうと、

　時間と場　を設定しました。すると少年は、教官に日ごろ思っていること、生活上の

　不満などをポツリポツリと話し始めました。

　　きっと多くの不満が鬱積していたのでしょう。教官は少年が話し終わるまで黙って

　聞いていました。そして聞き終わった後、「それはしんどかっだな。君の気持ちはよ

　く分かった」と答えました。少年もそれを聞いて、話しを聞いてもらえた、分かって

　もらえたといった安堵の表情が見られました。私も側で見ていて、これで少年も落ち

　着くかな、さすがベテランの教官だな、と思った矢先、その教官はこう続けたのです。

　「でもな、それは君にも問題があるんじゃないかな……」

　　私は私はこの時ほど、“余計なことを言って……”と思ったことはありません。教

　官の説教が続くにつれ、少年の顔はみるみるこわばり、そしてがっかりしたような表

　情に変わり、もう何も答えなくなりました。一方でその教官は、持論を展開し、黙っ

　て聞いていた少年に対して“これで変わるだろう”と思っているように見えました。

　その後のことは想像に難くありません。もうその少年が少年院の教官に対して心を開

　くことは、相手が誰であってもありませんでした。

　　みなさんもお分かりのように、その少年は教官からのアドバイスが欲しかったので

　はなく、自分の鬱積した気持ちを分かって欲しかっただけなのです。ところが、受け

　入れてもらえるどころか「でもな……」と否定される言葉をかけられ、心を閉ざして

　しまったのです。

　　　　　　　　　　〇

　わかるなあ。

　こういう教官いるんだろうな、と思い知らされます。

　なぜなら、教師にも、こういう人がいる（多い）からです。

　「児相」の人にもいたなあ（苦笑）。

　僕も危なっかしいなとは思いますが。

　　　　　　　　　　〇

　非行少年の保護者の語りに共通するもの　

　　そういった余計な声かけは、これら非行少年の保護者にも共通していたことでした。

　　少年院では保護者会というものが開かれていました。そこでは非行少年たちの保護

　者がが集まり、懇談会などを行ったりします。時には先輩保護者（既に少年院を出で

　更生した少年の保護者）にも来てもらって、今の保護者たちと意見交換をしてもらう

　こともありました。

　　先輩保護者からは、

　「出来ることは何でもやってきた。これ以上何をしろと？」

　「親が変われば子も変わるというのはウソだ」

　「近所の人から逃げるように生活してきた」

　「子どもと一緒に死んだら、全て解決すると思った」

　といった悲痛な語りがありました。親はみんな一生懸命向き合ってきたにもかかわら

　ず、非行化してしまった息子たち。そのやるせなさを共感する場でした。先輩保護者

　も非行少年の親でしたから、今の保護者を決して責めませんし、説教もしません。自

　分の体験を語るだけなのです。

　　しかし、保護者の語りをよくよく聞いてみると、共通していた話がありました。「

　お母さんはいつも僕の話を聞いてくれない、友だちは聞いてくれるのに、ってよく言

　われました」と複数の保護者が語っているのです。それを聞いて他の保護者たちも「

　うちもそう言われた」と語られていました。保護者側にも、子どもたちの話を聞けな

　いさまざまな事情があったと思いますが、子どもにとっては聞いてもらっていなかっ

　た体験が残っていたのです。

　　　　　　　　　　〇

　これもよくわかります。

　息子が中学生の頃、いじめにあったのですが、その子のお母さんから、電話がありました。

　電話のお母さんは、もう「あきらめて」ましたね。

　「もう、なんとでも言ってください」と言う感じでした。

　「今までやるべきことはすべてやりました。もう私の手には負えません。」という感じ。

　ここで母親を詰っても、何も解決しないな、と思いました。

　本当は、このお母さんがやるべきことは、子どもの話をとことん聞くべきだったんでしょう。

　このお母さんは、話を聞いても、そのあと、

　「でもな、それは…」

　とお説教をしたのではないかなと思います。

　言いたくなる気持ちはわかりますが、それをやったら、子どもは、「お母さんは、話を聞いて

くれなかった」と思うでしょうね。　

　面白かったです。

　アメリカには、こんな探偵ものがあるのか、と驚きました。

　私立探偵マニー・ムーンは、ハードボイルドものです。アクションもできますが、同時に、頭

も良くて、謎解きも得意です。戦争に行って、片足を失い、義足をつけていますが、相手と格闘

になったら、義足を武器にして闘います。

　頭が良くて、義足で、格闘にも強い。

　こんなキャラクターがありえるのか、ですよね（笑）。

　辻真先さん、ひさびさに読みました。

　面白かったです。

　今月も脳が疲れてることが多かったので、あまり考えずに読むことができて助かりました。

　『アリバイ崩し承ります２』です。

　もちろん、面白かったです。

　大山さんのは、たいてい読んでいると思いますが、今まで期待外れだったことはありません。

　時計屋の娘さんが、アリバイ崩しの専門家だという設定ですが、不可解な謎を持ち込む刑事が

何日も、何週間も解けないアリバイの謎を、話を聞いただけで、たちどころに解明してしまいま

す。アリバイものは、元祖のクロフツとか、鮎川哲也さんとか、探偵が苦労して苦労して、犯人

の鉄壁のアリバイを破る、というのが定石なのですが、大山さんは、それを逆手にとっていま

す。普通なら、そんなに早く破らなくても…（苦笑）、と思いそうなのですが、それがあまりに

も鮮やかに解かれるので、スッキリします。

　これもひさびさに、ガチに自閉っ子のお母さんの子育ての記録です。

　本当に昔ながらの（？）子どもの頃の自閉っ子の子どもの様子が読めて楽しかったですね。

　このお母さんは、小さな頃の、小さなことをよく覚えていて、それについてこういう考え方で

対処した、とちゃんと書いておられます。

　それが良かったのだと思いますね。子どもが、お母さんのことが好きなのが良く伝わってきま

す。昔は、この手の本は、お母さんの「苦闘」の歴史の本、というのが、大体の内容でした。

　でも今は変わってきました。

　大変だけれど、楽しい、という内容に変わってきています。

　いいことだと思います。

　自閉症の認知がだいぶ進んできたんでしょうね。

　面白い本でした。

　生命と土だけは、人間には作れない、と藤井さんが言っておられるのですが、それはその通り

ですね。土も、確かに人間には作れません。人間ができるのは、「作り変える」だけです。

　土は、石ができて、長い年月で風化したものです。地球規模の時間の射程がいります。

　この本は、生命が出現する以前の地球の歴史の話です。

　とても壮大で、面白かったです。

　野菜を作るのには、「窒素・リン酸・カリ」がいると言われているのですが、これも、もとも

とは地中の岩の成分だったものが、火山の噴火で地上にでてきたものです。それが今は、植物に

必要なものとして、人間が使っていることになります。壮大です。

　　　　　　　　　　　〇

　　水を張る前の田んぼの土の中で、微生物は酸素を取り入れて二酸化炭素を放出して

　いる。ヒ卜の細胞と同じ酸素呼吸である。有機物から電子を取り出し（酸化）、その

　電子で酸素を二酸化炭素と水へ還元する。その過程で放出されるエネルギーを受け取

　って、微生物もヒトの細胞も生きている。ところが、田んぼに水を張ると、酸素の移

　動速度は１００万分の１に落ち込み、酸素が土に届きにくくなる。土の中に残る酸素

　がなくなると、多くの微生物は活動できなくなる（死ぬか眠る）。35億年前の海底の

　泥（緑色粘土）は田んぼの土と大差ないと考えられている。田んぼの土の中では、水

　を張ってから１ヵ月のあいだに、酸素のなかった太古の地球並みに還元的（酸素欠乏）

　環境へと35億年分のタイムスリップをしている。

　　　　　　　　　　　〇

　水を張った田んぼの中の状態は、３５億年前の海底の状態と大差ない。３５億年のタイムスリ

ップをしているのだ、と。

　こんな説明していただくと、グンと身近に問題を捉えられるようになりますよね。専門的な難

しい話を、僕のような素人にも伝わり、ワクワクするような話に変えて話すことができるとは、

藤井さんという人が、素晴らしい専門家である証拠だと思います。

　有栖川さん、ひさびさに読みました。

　面白かったです。

　短編集なのですが、「同志社大学」（英都大学）の「推理小説研究会」の面々が出てきます。

　「同志社大学」は、僕の言葉が宿った大学なので、第二の故郷のようなものです。なつかしい

ですね。今でも、昔の推理ドラマなんで京都の町が出て来ると、じーっと見てしまいます。

　面白かったです。

　阿川さん、よくわかりませんが、やっぱり、対話の仕方がうまいんでしょうね。

　大体面白かったですが、特に河合さんと養老さんのが印象に残っています。

　ここでは河合さんを。

　　　　　　　　　　　　〇

　河合　卑近な例を挙げると……、守秘義務があるので少し状況は変えますが、大学に

　全然来なくなった学生がいて、熱心な先生が下宿を訪ねたら、本人は寢てる。ふと見

　たら、阿川弘之さんの小説があるから、「こういうの読んでるのか。俺も好きなんや」

　と言うと、起きてきた。

　阿川　ええ

　河合　ほんで、今まで無気力だったやつが「阿川さんの小説は……」とかっ言い出す

　から、「そんな面白いこと言うんなら、それでレポート書いたらどうや」なんて勧め

　ると、レポート書くし、大学にも出て来るようになった。「ああ、ようなったなあ」

　と喜んでたら、また来なくなったから下宿に行くと、「先生、やっぱり私だめです。

　もう死にます」と。

　阿川　まあ。

　河合　「しょうがない、今晩、わし泊まるわ」なんて言って、翌朝になると「お陰で

　元気が出ました。頑張ります」なんて言う。先生はまた嬉しくなるでしょう。ところ

　が、何日か経ったら電話がかかってきて怒鳴りまくる。「俺はもっと休んでいたかっ

　たのに、勝手に下宿に来るがって、レポートがうまいとかおだてて掻き回して、もの

　すごく迷惑してる」と。

　阿川　エーッ！

　河合　で、先生が「悪かった」と言うと、「悪いと分かっとんやな。ほな訴えるわ」

　と。これ、実際にあった例ですよ。

　阿川　河合さんが担当した例ですか。

　河合　いや、僕ではないです。僕はこんな馬鹿なことしません。

　阿川　どこが馬鹿なんですか。

　河合　引っつきすぎたのが馬鹿なんです。僕ら、手は差し出さないんですよ。下手な

　人ほど手を出す。

　阿川　じゃあ、河合さんだったら、どのように対処されましたか。

　河合　僕だったら下宿まで行きません。もし行ったとしても、何もしないでしょうね

　「あ、そう。ふーん」と言うとって、しばらくしたら「ほんじゃ、まあ帰るわ」と。

　次また行ったとしても、向こうが「何もする気が起きません」と言ってきたら、「あ

　あ、何にもできんか」と聞いて、また帰る。あれせい、これせい、なんて言うのは絶

　対にいけないんです。

　阿川　そうか。クライアントの方とは、どのくらいお会いになるんですか。

　河合　週に平均して十二、三人、多い時は一日七、八人とお会いしますかね。

　阿川　一人何分ぐらい？

　河合　五十分です　難しい方の後は、ちょっと軽い方にお会いするとか考えて。

　阿川　クタクタになりませんか。

　河合　クタクタになって、鬱病や頻尿の人が来ると、こっちも少し気分が重くなった

　り、トイレが近くなったりしますし、顔を撫でながら話すとか癖のある人だと、その

　癖がうつることもある。

　阿川　ヘーえ。

　河合　あと、非常に苦しんでいるのに、それをうまく伝えられない方がいるんですね。

　そういう場合、「きのう映画見たんですよ」なんて普通の話なんですけど、ものすご

　く疲れることがあるんです。